■墨の原料と種類

墨の原料は、煤(炭素末)・膠・香料で、それを混合し乾燥させたものが固形墨です。良質の墨は空気に触れても絶対に変化しない良質の煤と、透明度が高く粘着力の強い膠との混合によってつくられます。良質の墨とは、ただ黒いだけではなく、黒の中に七色の味わいを持ち硯で磨った際には清い香がし音のしないものを良質とします。
 墨とは、書かれた時代だけでなく遠い将来までもその味わい深い黒色を保ち、文字の美しさを人々の心にいつまでも伝え、観賞できるものなのです。煤には、油煙・松煙・改良煤煙の3種類があり、現在では炭素末と呼ばれています。

■油煙墨と松煙墨の違い

油煙墨と松煙墨は共に原料のすすは植物性の炭素ですが、そのすすの生い立ちは油煙の方は主に菜種油を、松煙の方は松の木片を燃焼させて採取しますので、墨の質もおのずから異なります。従来、和墨では油煙墨が最高で松煙墨はその次であると言うことがいつの頃からか定説となっていました。これはおそらく昔は油煙の方が高く、松煙の方が安かったので高い油煙で造った墨の方が良いとされたものだと思います。実際、書作上から見て黒色を考えると、むしろ松煙墨の方が、重厚さがあり年代が古くなるにつれて墨色も変化し濃淡潤渇による黒色の変化もあって、かえって油煙墨より面白いのではないかと思います。

■和墨と唐墨の違い

現在日本の墨(和墨)と中国の墨(唐墨)には大きな違いがありますが、日本に墨が伝来したころから和墨と唐墨の差が厳然としてあったわけではないと思われます。ではいったいなぜ違いが出てきたのでしょうか。日本と中国の製法の違い、気候風土の違い、紙の発達の違いによって、その製法に独特の差が出てきたと考えられています。日本では、唐の文化を多大に受けていた時代から菅原道真の遺唐使廃止進言によって変わりゆく国風文化の時代の中での書風の変化や日本独自の仮名文字の発展などによって、より繊細な墨の線や微妙な色合い、深い墨色が求められるようになったことから、書き手や墨造り職人が共に工夫に工夫を重ねてきたと考えられています。

和墨と唐墨の製法の差とニカワについて

松壽堂 固形墨
松壽堂 固形墨
雲龍墨
雲龍墨